交流回路の標準計算法「記号法」
電験3種の交流回路計算に対処するためのは、ある程度「体系的」に理解しておく必要がある。
この記事は交流回路の標準計算法「記号法」の概要についてまとめたものである。
より詳しく知りたい方は、交流回路計算ポイント集を参照してください。
目次
1.交流回路計算の原典
交流回路にオームの法則やキルヒホッフの法則を適用すると、時間経過に対するコイルとコンデンサの挙動があるため、微分方程式と呼ばれる式になる。
交流回路の原典は、これらの微分方程式を「直接解く」ことにある。
しかしながら交流回路が複雑になると微分方程式を直接解くのが困難になる。
2.交流回路の標準計算法「記号法」
アメリカの天才電気工学者のスタインメッツは、交流回路の微分方程式を「間接的」に解く手法を考案した。
この計算法を「記号法」といい、今日における交流回路の標準計算法となっている。
① 記号法
交流回路の諸量を「複素数変換」すると、直流回路の諸法則・定理および公式を適用した代数計算が可能となる。
② 直流回路の諸法則・定理および公式
3.交流回路計算で使用する文字記号 ①
瞬時値式で使用する文字記号は「小文字」を使用する。
瞬時値式とは、時間の経過に伴って変化する値を示す式である。
4.汎用性の高い式は日本語で覚えておくと便利
汎用性とは、さまざまなことに広く用いることができる性質のことをいう。
オームの法則を下式のように「日本語」で覚えておけば、慣例を無視した文字記号を当てたとしても混乱することはない。
電圧=抵抗×電流
例えば、電圧にA、抵抗にB、電流にCの文字記号を当てたとしても混乱することはない。
オームの法則を下式のように「アルファベット」で覚えると、どうしてもその記号に意味が縛られてしまう。
V=R×I
例えば、Dを電圧、Eを抵抗、Fを電流の文字記号を当ててオーム則を適用しようとすればどうなるかは一目瞭然である。
特にEの記号は慣例では起電力や電圧の記号なので、脳が不一致を起こして混乱してしまうのである。
5.交流回路で使用する文字記号 ②
交流回路の複素数やベクトルで使用する文字記号は、
大文字の上部に点(ドット)を付けたものを使用する。
複素数の絶対値(大きさ)やベクトルの長さ(大きさ)を表す文字記号
共役複素数を表す文字記号
6.交流回路の電源の角周波数と周波数と周期の公式
角周波数の文字記号は、慣例でω[rad/s]を使用する。
周波数の文字記号は、慣例でf[Hz]を使用する。
周期の文字記号は、慣例でT[s]を使用する。
7.複素数の一般式
複素数は汎用性があるので「日本語」で覚えておき、状況に応じて文字記号を当てはめよう。
上式の位相は、逆三角関数で表記しただけの数式なので、この式から具体的な位相の数値が算出できるわけではない。
電験3種の試験で具体的な位相の値が必要になった場合は、特別な直角三角形の辺の比と角度の関係から算出する必要がある。
8.二つの特別な直角三角形の辺の比と角度の関係
特別な直角三角形 ①
特別な直角三角形 ②
9.交流回路の複素数変換と瞬時値式の復元
① 交流回路の複素数変換例を「RLC並列回路」で示す。
交流回路の諸量を「複素数変換」すると、直流回路の諸法則・定理および公式を適用した代数計算が可能となる。
この計算法が「記号法」である。
記号法による計算は「時間の経過を止める」ので、位相は「初期位相」を取り扱うことになる。
② 記号法による交流回路の複素数計算の結果からを瞬時値式を書き出すことができる。
「記号法」による計算結果から復元した瞬時値式は、微分方程式を「直接」解いた結果と完全に一致する。
10.交流回路の実効値
記号法では時間経過を止めるので「電圧」「電流」「電力」の値が変化しないようにする必要がある。
変化しない値として電圧と電流の積が「平均電力となる値」を採用している。
この値のことを「実効値」と呼んでいる。
抵抗の平均電力:有効電力[W]
コイルの平均電力:遅相無効電力[var]
コンデンサの平均電力:進相無効電力[var]
① 正弦波交流の実効値の公式
11.複素数
複素数とは複素平面上の点の位置(座標)に対応する数である。
① 複素平面とは、xy 平面のx 軸に実数をy軸に虚数を対応させた平面をいう。
② 位相の基準(0°)は正の実数軸上である。
③ 位相の正方向は「反時計回り」の方向である。
④ 位相の負方向は「時計回り」の方向である。
⑤ 虚数jとは2乗して-1になる数をいう。
⑥ 複素数の直角座標表示
⑦ 複素数の極座標表示
⑧ Φに「正負の値を持たせる場合」のオイラーの公式
位相=(Φ)
(+30°)、(-90°)、(+45°)、(-30°)
⑨ Φに「正負の値を持たせない場合」のオイラーの公式
位相=±(Φ)
+(30°)、-(90°)、+(45°)、-(30°)
⑩ 共役複素数
ある複素数の共役複素数とは、ある複素数の虚数部の符号を反転したものである。
⑪ 交流回路の標準計算法「記号法」では、複素数とベクトルを対応させている。
複素数とベクトルの対応により、交流回路の状況が視覚的に把握しやすくなる。
複素数の合成の際に「記号法」で具体的に計算しなくても「ベクトル合成」で交流回路のだいたいの状況を示すことができる。(GIFアニメーションあり)
⑫ 位相差とは二つの位相の差である。
位相差は「二つの位相の差」である。
位相差は正負の値を持たない。
(GIFアニメーションあり)
⑬ 基準ベクトル
正の実数軸上にあるベクトル(位相0°)を「基準ベクトル」という。
基準ベクトルになっている複素数は「絶対値」で簡潔に表記できる。
⑭ 基準ベクトルの設定
交流回路の基準ベクトルは、任意の複素電圧または複素電流を設定することができる。
複素電圧や複素電流の位相は、基準ベクトルの設定の仕方で「変化」をすることになる。
複素インピーダンスと複素電力の位相(偏角)は基準ベクトルの設定に関係なく変化しない。
何故なら、複素電圧と複素電流の位相が変化しても、上のGIFアニメーションに示すように「複素電圧と複素電流の相対的な位置関係は変わらない」ので複素電圧と複素電流の「位相差」も変わらないからである。
⑮ 複素電力の公式
複素電力を「複素電圧」と「複素電流」の積で計算すると、交流電力の結果が正しくならない場合がある。
これは、複素電圧と複素電流の位相差が正しく反映されないためである。
ゆえに、複素電力の公式は「複素電圧の共役複素数」×「複素電流」として、常に「複素電圧と複素電流の位相差の結果」が正しくなるようにしているのである。
複素電力「複素電圧を共役複素数」×「複素電流」の計算結果の実数部が交流回路の有効電力に対応し、虚数部が無効電力に対応している。
12.抵抗Rの交流回路の重要事項
① 複素電圧と複素電流の計算
② 瞬時値式の復元
③ 複素電力の計算
④ 複素電圧と複素電流のベクトル図
⑤ 複素電力のベクトル図
⑥ 複素インピーダンスのベクトル図
13.インダクタンスLの交流回路の重要事項
① 複素電圧と複素電流の計算
② 瞬時値式の復元
③ 複素電力の計算
④ 複素電圧と複素電流のベクトル図
⑤ 複素電力のベクトル図
⑥ 複素インピーダンスのベクトル図
14.静電容量Cの交流回路の重要事項
① 複素電圧と複素電流の計算
② 瞬時値式の復元
③ 複素電力の計算
④ 複素電圧と複素電流のベクトル図
⑤ 複素電力のベクトル図
⑥ 複素インピーダンスのベクトル図
15.誘導性負荷と交流電力の公式
① 誘導性負荷とは
負荷複素電流の位相が負荷複素電圧の位相に対して遅れるような働きをする負荷を「誘導性負荷」という。
② 誘導性負荷を表す最も簡単な回路構成
RL並列回路またはRL直列回路が誘導性負荷を表す最も簡単な回路構成である。
③ 誘導性負荷の複素電力
④ ③から得られる交流電力の公式(有効電力、遅相無効電力、皮相電力)
⑤ 力率
cos(複素電圧と複素電流の位相差)を交流回路の「力率」と定めている。
負荷複素電圧と負荷複素電流に注目している場合は「負荷力率」と呼ぶことがある。
誘導性負荷の力率を「遅れ力率」と呼ぶことがある。
⑥ 無効率
sin(複素電圧と複素電流の位相差)を交流回路の「無効率」と定めている。
負荷複素電圧と負荷複素電流に注目している場合は「負荷無効率」と呼ぶことがある。
誘導性負荷の力率を「遅れ無効率」と呼ぶことがある。
16.容量性負荷と交流電力の公式
① 容量性負荷とは
負荷複素電流の位相が負荷複素電圧の位相に対して進むような働きをする負荷を「容量性負荷」という。
② 容量性負荷を表す最も簡単な回路構成
RC並列回路またはRC直列回路が誘導性負荷を表す最も簡単な回路構成である。
③ 容量性負荷の複素電力の結果
④ ③から得られる交流電力の公式(有効電力、無効電力、皮相電力)
⑤ 力率
cos(複素電圧と複素電流の位相差)を交流回路の「力率」と定めている。
負荷複素電圧と負荷複素電流に注目している場合は「負荷力率」と呼ぶことがある。
容量性負荷の力率を「進み力率」と呼ぶことがある。
⑥ 無効率
sin(複素電圧と複素電流の位相差)を交流回路の「無効率」と定めている。
負荷複素電圧と負荷複素電流に注目している場合は「負荷無効率」と呼ぶことがある。
容量性負荷の力率を「遅れ無効率」と呼ぶことがある。